企業の競争力向上のために質の良い採用が求められますが、近年は採用の複雑化により採用担当者の負担が大きくなっています。業務過多で長時間労働を求められる状況で、質の高い採用は期待できません。
そこで注目すべきが、採用業務の効率化です。採用業務の無駄を省くことで採用担当者がコア業務に専念できれば、スピード感のある採用と質の高い採用の双方の実現が可能になるでしょう。
本記事では、採用業務の効率化を高める方法6つと、重要な思考プロセス・フレームワークを紹介します。
慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルートキャリアにて累計100社以上の採用コンサルティングに従事。現在はサクルートにて様々な企業のダイレクトリクルーティングを支援。
採用業務の効率化が求められる理由
採用業務の効率化を行うことは、採用の工数削減に繋がります。さらに深掘りして考えると、採用業務の効率化によって採用業務の工数削減が実現すると優秀な人材の確保にダイレクトに繋がるといえます。
もちろん、経費の削減も期待できるでしょう。
まずは採用業務の効率化により得られるメリット、採用業務の効率化に求めるポイントについて見ていきましょう。
人事部の負担軽減により質の高い採用が見込める
人事部や採用担当者の業務過多の状態が続くと、長時間労働によるパフォーマンスが低下するおそれがあります。
特に採用担当者が人材育成・労務管理などの業務も兼任している場合や、新卒採用など大量採用の時期は、採用業務の効率化は必須です。
採用業務の効率化を行い負担を軽減することで、採用戦略の立案や面談、内定者とのコミュニケーションなどコア業務に集中できます。社員のモチベーション向上も期待できます。
全体のパフォーマンスが向上することで、質の高い採用が期待できるでしょう。
採用スピード向上により優秀な人材を確保しやすくなる
採用業務を効率化することは、採用スピードの向上に繋がります。面接から内定の期間を短くし他企業よりも早く選考を進めることで、優秀な人材の確保に繋がると考えられます。
なお、以前はインターンシップに参加した学生の情報は採用に使ってはいけないとしたルールがありました。
しかし2022年にルールが一部改正され、25卒からは一定の条件を満たしたインターンシップに参加した学生の情報を採用活動等に利用することができます。インターンシップから選考直結が実現が可能となりました。これらを上手に活用することで、採用スピードの向上や優秀な人材の確保に繋げられるでしょう。
参考:文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」
システムを導入することで他部署との連携が取りやすくなり質が向上する
採用業務の効率化として1番に考えられるのが、採用管理システムなど採用ツールの導入です。システムを導入し一元管理を行えれば、他部署との連携が取りやすくなります。
現場で求められるスキルを自身の目で見ていない人事部や採用担当者が採用を行うと、マッチした人材の確保に繋がりません。そのため、配属予定先の部署と提携して採用を行う企業も少なくないでしょう。しかし他部署と連携を取ることで、採用効率が劇的に低下しているケースもあります。
採用の一元管理を行い効率化を進めれば、他部署との連携が取りやすくなり、自社にマッチした人材が見つかりやすくなります。
採用業務の効率化における基本的なステップ
採用業務の効率化を行うための基本的なステップを解説します。
効率化を行ううえで重要なのは、現状を正確に評価することです。詳細を見ていきましょう。
採用業務の内容と段階を理解し現状を評価する
採用業務の内容を段階ごとに分けて業務内容を可視化する(例)
- 採用戦略を練る
- 広報活動
└インターンシップ・説明会などイベントの告知
└SNSなどでの自社のアプローチ
└自社サイトでの採用ページの作成 - 求人票の作成
└使用する求人媒体の選定
└使用する求人媒体ごとに使う文章の考案
└リクルーターの選定
└スカウトメールの作成・配信 - 応募受付
└応募者とのコミュニケーション - 選考開始
└書類選考
└面接日の調整 - 面接
└評価シートの作成・評価基準の確認
└面接会場の設営
└面接複数回の場合は面接日の調整 - 内定
└内定者フォロー
└内定後のイベントや説明会の準備
└内定者向け説明会や懇談会などの開催
└内定者研修 - 入社
└入社後の研修
各業務において、以下の点などを考慮し現状を評価する
- 業務の担当者・担当部署
- 業務にかかるコストと時間
- 業務にかかる工数
- 業務にかかる人員数
- 業務に求められるスキル
- 業務以外に兼任する他の業務かあるかどうか
└ある場合は、その兼任業務も可視化し負担を考慮
以下の3つの種類に業務をカテゴライズしておく
- 自動化できる業務
- フォーマット化したほうが良い業務
- 人の手で行わなければいけない業務
最初は採用業務の内容を可視化します。
各業務の特徴や特性を理解し現状を評価することで、改善すべきポイントが見えてきます。工数がかかりますが、今後の採用業務の効率化においては重要なポイントです。
採用業務を効率化することは中長期的な視点から見てもメリットが多いため、必ず行いましょう。
各採用段階の課題を洗い出して解決のために動く
(例)
- 応募者とのコミュニケーションが業務を圧迫している
- 求人掲載のための文章に時間がかかりスピード感がない
- 求人媒体ごとに応募者の管理が必要でコア業務に専念できない
- 面接後、各面接官の情報共有に時間がかかり選考が長引く傾向にある
- 面接日の調整や場所の確保に時間や労力がかかる
問題が発生することで生じるデメリットを洗い出し優先度を考える材料にする
- 応募者とのコミュニケーションが業務を圧迫している
=パフォーマンスの低下により採用の質が下がる - 求人掲載のための文章に時間がかかりスピード感がない
=他企業よりも遅いスタートのため他企業に優秀な人材を取られる - 求人媒体ごとに応募者の管理が必要でコア業務に専念できない
=応募者の管理に時間がかかり応募者との関わりが淡泊なものになる - 面接後、各面接官の情報共有に時間がかかり選考が長引く傾向にある
=選考が長引くと内定辞退・面接辞退率が高くなる - 面接日の調整や場所の確保に時間や労力がかかる
=コア業務に集中できず質の低下が懸念される
どの業務を優先的に改善すれば最も効率化が高まるのか仮説を立てて優先順位を決める(例)
- 過去の採用を見て面接辞退率が高ければ面接段階の業務を見直す
- 応募者とのやり取りでミスが目立つ場合は応募者管理ツール導入の検討をする
- 求人媒体に時間がかかるにも関わらず効果が見込めない場合
└ノウハウのある企業に文章のフォーマット作成を依頼する
└採用担当のスキルを再評価しより最適な人材に変更する
各採用段階の問題を深掘りして、解決のための優先順位を決めていきましょう。
解決すべき問題が多数ある場合は、まず最も解決すべき問題をいくつかピックアップし取り組みます。
業務改善を行うことは、すなわち慣れない業務を社員に行わせるということ。慣れない業務のために時間コストがアップする可能性も考慮し、無理のない範囲で行っていきましょう。
データ化し振り返る
解決のための行動を起こしたら、データ化して振り返ります。「各採用業務の現状を評価する」で紹介したポイントはもちろん、採用活動の本質的なデータにどのような影響を与えたのかも確認していきましょう。
応募者数、選考通過率、面接辞退率、内定辞退率、最終的な入社数、入社後の早期離職率など総合的に評価します。
ただし業務の効率化をのために慣れない作業を長時間行う場合、時間的コストが一時的に長くなる可能性もあります。こういったデータには表れにくい部分も考慮することで、より正確な評価ができるでしょう。
このステップを繰り返し、業務を効率化していきます。
採用業務の効率化のための思考プロセスとフレームワーク
採用業務効率化で使える思考プロセスやフレームワークを紹介します。
いくつか知っておくことで、採用業務の効率化に役立つでしょう。
”無駄を省き無理を除いてムラを少なく”を意識する
効率とはすなわち、無駄を省き無理を除いてムラを少なくすることです。これは能率の父と呼ばれる上野陽一の教え十箇条(能率10訓)にも記載されています。
現代においても使える思考であり、知っておいて損はありません。
参考:産業能率大学「能率10訓」
採用業務の効率化に使えるフレームワーク
BPMN | 業務における課題を発見するときに使えるフレームワークです。 複雑化している業務の流れを視覚的に分かりやすくするため、フローチャート化を行います。無駄業務の発見、システム導入の検討に使えます。 |
ECRS | Eliminate(無駄の排除)・Combine(類似業務の統合)・Rearrange(業務の整理)・Simplify(業務の簡易化・単純化)の頭文字を取ったフレームワークです。 ECRSの順番に行うことで業務のブラッシュアップが可能です。改善を効率的に行えます。 |
PDCAサイクル | Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の頭文字を取ったフレームワークです。 PDCAの順番に行い繰り返すことで、継続した改善が可能です。繰り返しがちなミスの回数減少にも繋がります。 |
KPT | Keep(継続)・Problem(問題)・try(試行錯誤)の頭文字を取ったフレームワークです。 短いスパンで業務の振り返りと試行錯誤を行うために作られており、スピード感のある業務改善を行えます。 |
MECE | ダブりをなくすためのフレームワークです。 MECEによりグルーピングを行い、被りがある業務を見つけ出します。根本的な問題の解決や、全体像を説明する際に使われます。視覚的に分かりやすいため、業務改善提案を行う際に便利です。 |
採用業務で使えるフレームワークは、上の5つです。これらを利用して、採用業務の効率化をよりスマートに行っていきましょう。どの場面にどのフレームワークが最適なのかを適宜考え、無理のない範囲で使うことがおすすめです。
採用業務を効率化する6つの具体的な方法
採用業務を効率化するための具体的な方法を、6つに分けて紹介します。
自社の予算や人員的な余力も踏まえて、実際に導入するか否かを検討していきましょう。
採用担当者を見直す
各採用担当者のスキルや才能を最大化できているかを再評価し、人員の配置を見直すことも重要です。
人それぞれ得意分野が異なり、入社後とは違った能力が開花している可能性もあります。また入社時点で得意だったことが、現在は苦手になっている可能性も0ではありません。
ルーティンワークは仕事に不慣れな新人に任せて、ベテラン社員はより専門的な業務に専念できると全体的な効率化が期待できます。類似業務は担当者を統合するなど、そういった業務の再配置も検討しましょう。
選考フローを見直す
選考フローを見直します。選考フローにおける採用業務の効率化の方法として、具体的に以下のような方法があげられます。
- 利用する求人媒体を見直す
└利用する求人媒体を最小化し管理に時間をかけない
└より効果のある求人媒体のみを残す - マニュアルの作成
└フォーマット化が可能なところは全て行う - 選考のオンライン化
└移動や会場設営の手間を省く
└日程調整を簡易化する
よりスピード感のある選考を行えるよう、フォーマット化が可能な部分はフォーマット化しましょう。
採用のデジタル化を行う
採用業務におけるさまざまな書類や情報をデータベース化することで、場所を問わず簡単に情報を適切な形で抽出できます。データベース化をすることで、欲しい情報の検索が可能となり引きだすまでの時間が短縮できます。
また他部署との連携を行う際にも、データベース化はおすすめです。情報を簡単に共有できれば、採用業務の効率化に繋がるでしょう。
人事担当のみがアクセスできる情報と他部署の人がアクセスできる情報に分けることもできるため、情報のセキュリティ管理もより厳重になります。
採用管理ツールを利用する
採用管理ツール・機能の例
各媒体の応募状況の一元管理 | 連携している求人媒体の応募状況(エントリーなど)をまとめて管理 |
応募者情報を自動的に取り込む | 連携している求人媒体の応募者情報を自動的に取り込みデータ化 |
応募者との連絡の一元管理 | 応募経路にかかわらず、応募者との連絡を一元管理 |
選考状況の一元管理 | 応募者ごとの選考状態・評価を俯瞰的に確認 |
外部システムとの連携 | Web面接システムやチャットツールと連携 |
採用管理システムや採用ツールの導入を行うことは、採用業務の効率化に好結果をもたらします。自社が利用している求人媒体と連携しているシステムを導入すれば、応募者の一元管理も可能です。
上手く利用することで、一気に効率化が可能です。
採用業務の委託を行う
コア業務以外の雑務を外部に委託したり、面接の日程調整などを代理してくれる採用代行サービスを利用したりすることで業務の効率化が可能です。
雑務以外に、不得意な分野の採用業務委託も効率化にはおすすめできます。特に採用業務を兼任している場合は、業務方に悩むケースは少なくありません。
採用のコア業務を委託することで、自社の採用ノウハウを貯えられるケースもあります。人員が不足している企業やノウハウが少ない企業は、採用の時期のみ依頼が可能な採用代行も検討しましょう。
採用業務の効率化を行ううえでの注意点
採用業務の効率化を行ううえで重要なポイントは、着実にひとつずつ解決をすることです。
複数の問題を一気に解消する場合、従業員に大きな負担がかかります。計画が破綻したり、退職に繋がったりといった重大なデメリットが懸念されます。そのため着実にひとつずつ、採用業務の効率化を行うことが重要です。
本記事で紹介した「採用業務の効率化における基本的なステップ」を参考にしながら、優先順位を決めて着実に解決していきましょう。
採用業務の効率化を行い、採用の成功率を高めよう
採用業務の効率化の方法について、具体的な例を提示しながら解説しました。
採用業務の効率化を行うことで、従業員のモチベーション向上、採用の質の向上、優秀な人材の確保など大きなメリットを得られます。しかし複数の問題を同時に解決しようとすると、従業員のモチベーションの低下、計画の破綻、退職など重大な問題が発生するリスクがあります。
優先順位の高い問題から優先的に解決し、無理のない範囲で行っていくことが重要です。