人材採用は、企業が経営していくうえで必要不可欠なフローです。将来自社で働く優秀な人材を見つけるために決して少なくはない費用を投入する必要がありますが、予算には限りがあります。
「採用コストを削減しつつ優秀な人材を確保したい」と、より高い費用対効果を望む採用担当者は多いでしょう。採用コストを抑えることは、企業にとって重要な項目です。
本記事では、新卒採用・中途採用の一人当たりの平均採用コストの他、採用コストを削減する方法について解説します。
慶應義塾大学卒業後、株式会社リクルートキャリアにて累計100社以上の採用コンサルティングに従事。現在はサクルートにて様々な企業のダイレクトリクルーティングを支援。
一人当たりの採用コスト(採用単価)の平均は93~103万円
一人当たりの採用コストの平均は、93~103万円程度です。株式会社リクルートの就職みらい研究所が発表した『就職白書2020』を参考に、近年の採用コストの推移などを紹介します。
ただし、これらの金額はあくまでも目安でしかありません。
新卒採用か中途採用か、採用手段、採用予定人数、会社により一人当たりの採用コストは大きく変わります。また、近年は売り手市場への転換によるPR費用等の増加、物価上昇による賃上げなどの情勢が影響し採用コストは上昇傾向にあります。詳細を見ていきましょう。
参考:株式会社リクルート:就職白書2020
新卒の平均採用コスト
株式会社リクルートが発表した『就職白書2020』では、2018年度の新卒の平均採用コストは71.5万円、2019年度は93.6万円です。同調査では、2018年年度から2019年年度にかけて新卒の平均採用コストは、約3.1割増といった結果となりました。
近年は少子高齢社会の影響で学生の数が減少傾向にあり、企業間での競争が激化しています。そのためより優秀な新卒を確保するために、採用にかかる人数を増やしている企業が増加傾向になるとの結果もありました。
内部コストにお金をかけている企業が、より優秀な人材を獲得できていると言った傾向がみられるといえます。
また物価上昇による賃上げの取り組みなども影響していると考えられ、今後も採用コストは上昇していくと考えられるでしょう。
中途の平均採用コスト
株式会社リクルートが発表した『就職白書2020』では、2018年度の中途採用の平均は83.0万円、2019年度は103.3万円です。同調査ではいずれの年度も、新卒採用よりも中途採用のコストが有意に高いといえます。
中途採用は、新卒採用よりも即戦力になる人材を求める企業が多くなります。つまり、自社とマッチした人材を探す工程に時間がかかっていると考えられるでしょう。
逆に即戦力を求めないポテンシャル採用を行う場合は、採用コストは低くなる傾向にあります。
また、2018年年度から2019年度にかけての中途採用の平均コストは約2.4割増といった結果となりました。
同調査の詳細は、『就職白書2020』をご覧ください。
採用コスト(採用単価)とは?
次は採用コストについて詳細に解説します。採用コストの概要はもちろんのこと、採用にかかるコストの例や、計算方法をまとめました。
自社で採用を行う際は重要なポイントとなるため、必ず採用コストについては検討しておきましょう。
採用コストの概要
採用コストとは、採用活動全般において発生する費用を指します。
求人広告依頼や採用代行サービスへの登録、採用イベントへの参加など人材の募集に必要とした費用、面接費用、選考にかかる費用など全ての費用を合計した金額です。人件費等も、採用コストのひとつです。
物価が上昇している昨今、説明会参加費用や面接会場費、人件費などさまざまな費用が増加傾向にあります。
採用コストの種類
採用コストは、社内で生じた内部コストと、発注など外部への依頼で生じた外部コストがあります。
内部コスト
内部コストは、社内でかかる採用コストです。内部コストの例を以下にまとめました。
【採用活動全般にかかる人件費】
- 面接
- 選考
- 求職者への連絡など
【諸経費】
- 求職者への連絡にかかる通信費
- 求職者への連絡にかかる郵送費
- 内定者フォロー費用など
【その他】
- 求職者にかかる経費(面接会場までの交通費など)
- 面接時に提供する飲食費
- リファラル採用による従業員へのインセンティブなど
外部コスト
外部コストは、外部に発注した際にかかった費用を指します。外部費用の例を以下にまとめました。
【サービス利用料】
- 求人広告依頼費用
- 人材紹介サービス費用
- RPO(採用代行)費用など
【自社のPR費用】
- 採用イベントや合同説明会への参加費用
- 採用セミナー開催費用
- 集団面接会場費など
【その他の費用】
- 採用サイトの制作や運営、PR動画作成費用
- 会社パンフレット作成費用
- オンライン面接にかかるツール利用費用
採用コスト(採用単価)の計算方法
採用コストの計算方法を以下にまとめました。
【採用にかかる総額】
内部コスト+採用コスト
【一人当たりの採用コスト(採用単価)】
採用総額÷採用人数
【採用単価の内訳を計算する式】
特定のカテゴリーにおける、一人当たりの金額を算出する際に使います。一人当たりの求人広告費用を知りたいなら、求人広告費用÷採用人数で計算します。
特定のカテゴリの費用総額÷採用人数
採用コストに関する課題を持っている企業はまず、カテゴリ別にコストを見て分析することがおすすめです。採用単価の内訳を確認・分析することで、無駄なコストの削減に繋がります。
採用コストを削減する4つの方法
採用コストの削減方法を紹介します。
まずは従来の採用方法を活用したまま採用コストを削減する方法について、4つ見ていきましょう。
採用コストの見直し
過去数年間の採用コストをデータ化して分析し、改善点を洗い出します。各出費カテゴリ別に金額を確認することで、無駄な出費を確認しましょう。
チェックすべきポイントや流れを、以下にまとめました。
- 過去数年間の採用コストをデータ化する
-費用ごとに出費をまとめる
-採用手段ごとに費用対効果を考える
-結果の出ていない費用は削減する - システム導入により人件費を減らせる項目がないか確認する
- 外部発注で削減可能な内部コストを確認する
- 削減可能な外部発注を確認する
過去数年間の費用対効果を細かく分析することで、削減すべきポイントが浮かび上がります。また、システム導入やサービス利用より削減できる人件費はないかを確認しましょう。
採用選考プロセスの見直し
過去の採用について振り返り、選考プロセスの改善点を探します。複数の選考プロセスを設けている企業もあるなど、選考プロセスは企業によりさまざまです。
基本的には、以下の4つのステップを設けている企業が多い傾向にあります。
- エントリー
- 書類選考
- 面接(一次面接~最終面接)+適正テスト
- 内定
これらの選考プロセス項目の変更はもちろんのこと、人件費、会場費も合わせて確認します。システム導入により削減できる箇所はないか、面接の回数を減らせないか、会場変更やオンライン面接などでコスト削減できないかを検討しましょう。
内部コストが膨らみがちな選考プロセスを変えることで、一人当たりの採用コストの削減が期待できます。
母集団形成フローの見直し
一人当たりの採用コストを抑えるために重要なポイントが、母集団形成フローの見直しです。
多くの人材を抱え込む質より量の母集団形成は、優秀な人材の取りこぼしを抑えられるメリットがあります。しかしその分、選考にかかる工数が増え結果的に採用コストが大幅に上昇します。
質の高い母集団形成を行うことで、応募者対応や選考プロセスの軽量化が期待できるでしょう。
早期離職の防止策の考案
採用した社員の定着率向上をはかり、早期離職防止策を練りましょう。早期離職の防止策と定着率向上策を講じて結果を出すことで、最終的には採用コストの削減に繋がります。
具体的には、以下のような策が挙げられます。
- 社内コミュニケーションの強化
- 教育の強化
- 人事評価制度の見直し
- 各種ハラスメント防止策
- フレックス制度など柔軟な働き方が可能な制度の導入
- 入社後に「何か違う」と思われないPRの作成
これらを行うことで、結果的に一人当たりの採用コストを抑えられます。ミスマッチを少しでも減らすことで、離職率を下げられます。
採用コストの削減が期待できる5つの採用方法
採用方法を変更することで、一人当たりの採用コストを大幅に抑えられるケースもあります。
自社の採用戦略や形成戦略、方針等に合う採用方法が選ばれているのかを今一度確認しましょう。
ダイレクトリクルーティングの導入
自社が求める人材のみに直接アピールできる採用方法である、ダイレクトリクルーティングはチェックすべき採用方法です。
近年は優秀な人材を確保するための企業間競争が激化しており、求人広告掲載など従来の待ちの採用では魅力的な人材を確保しにくい状態といえます。企業から求職者に直接アピールするダイレクトリクルーティングを導入すれば、質の高い母集団形成が可能となり、採用コストの削減が期待できます。
ただしダイレクトリクルーティングは、ノウハウが必要です。自社の採用担当者にノウハウがなければ、高い費用対効果が得られません。採用代行に依頼しノウハウを蓄積するなど、対処が必要です。
リファラル採用
自社で働いている社員から友人、親族、知人を紹介してもらうリファラル採用は、コスト削減はもちろんのこと離職率の低下の問題も解決できる採用手段です。
採用代行や求人広告掲載にかかる費用は必要ないため、大幅なコストカットが期待できます。社員に支払うインセンティブは必要になりますが、人材紹介サービス等でかかる報酬よりも安く済ませられるケースがほとんどです。
また友人、親族、知人は、社員から細かく会社について知らされているケースが多い傾向にあります。マッチ度が高いため離職率が低く、長く働いてくれる可能性が高いといえるでしょう。
アルムナイ採用
アルムナイ採用とは、退職者を対象とした再採用を指します。リファラル採用と同様、採用代行や求人広告費用は必要ないため大幅なコストカットが期待できます。
退職者であれば人物像も明確であるため、知らない人間を採用する際に生じるリスクは回避できるでしょう。
また退職者は、業務内容やビジネスマナーなどについて理解しているケースもあります。そのため、研修費用等のコストカットが可能でしょう。ただし、システム導入等で業務内容が大幅に変更された企業は1から業務を教育する必要があります。
自社の採用ページの活用
自社の採用ページを充実させ直接求職者を募ることができれば、求人広告費用等の出費をカットできます。知名度が高い企業、大企業などであれば、自社の採用ページを充実させるだけである程度質の高い採用が可能となるでしょう。
また、Indeed・求人ボックスと連携させれば、自動的に求人広告を公開できて効率的です。
知名度の低い企業や、中小企業、スタートアップ企業やベンチャー企業などの場合は、自社の採用ページを作成してもアクセスを集められないこともあるでしょう。しかし、自社の採用ページを作り込んでおくことで信頼感が得られます。時間があるときに、自社サイトに情報掲載をしておきましょう。
SNSでの広報活動
SNSで広報活動を行うことは、中長期的な視点での採用のコストカットが期待できます。
SNSで広報活動をしさまざまな人に自社の存在を知ってもらうことで、求人広告費用等のコスト削減ができるでしょう。また、社内の雰囲気を伝えるPR動画を出すことで、ミスマッチを減らし離職率の低下に繋がることが期待できます。
ビジネス用のSNSを活用することで、より効果が高まります。
XやInstagramなど求職者以外も利用している一般的なSNSを利用する場合は、採用手段というよりも、その他の採用手段を手助けするためのツールとなります。メリット・デメリットを加味したうえで、広報活動を行いましょう。
サービスを利用して採用コストを抑える方法
採用代行やダイレクトリクルーティングなどのサービスを利用することで、内部コストを大幅に削減しより高い費用対効果を得られる可能性があります。
料金システムはさまざまで、一人採用ごとに報酬がかかる採用成功報酬型、一定の金額を支払えば何人でも採用可能な定額型などがあります。定額型を利用すれば、一人当たりの採用コストは大幅に削減できる可能性が高いです。
また採用のプロである採用代行サービスを利用し自社に採用のノウハウを蓄積できれば、次の採用からは自社のみで採用が完結可能です。採用代行サービスの概要やおすすめの採用代行サービスに関しては、以下の記事をご覧ください。
コスト以外の採用に関するよくある課題5選
採用業務においては、コスト以外にも以下のような課題を抱えている企業が多いです。
それぞれの詳細と改善方法について詳しく解説するので、上記のような課題を抱えている方はぜひ参考にしてください。
十分な数の応募が集まらない
求人を公開したりスカウトメールを送信したりしていても、十分な数の応募が集まらないと感じている企業は少なくありません。応募が集まらないことには採用にも至らないため、優先的に改善する必要があります。
対処法としては、採用手法や求人内容を見直すことをおすすめします。例えば、求人広告を出稿している場合は、人材紹介・求人広告・地方求人誌・ハローワークなどの中から、自社が求めるターゲットに近い利用者がおり、かつ全体の利用人数が多いところに求人を出しましょう。
若者を採用したいにも関わらず主婦向けの媒体に求人を出していても、求人内容のミスマッチからなかなか応募が集まらないでしょう。他にも、求人内容の情報量が少なかったり、他の企業との差別化が図れていなかったりすることも、応募が集まらない要因のひとつです。見直し・改善を実施しましょう。
求める人材からの応募が少ない
応募は集まっているものの、求めている人材からの応募が少ないケースです。求めていない人材から応募があっても採用には至らない上に、確認業務の負担がかかってしまいます。
おすすめの対処法は、求人や募集要項に「この仕事に向いている人の特徴・向いていない人の特徴」を明記することです。「応募者が減るかも」と心配になる人もいますが、結果として質の高い応募者が増える場合が多いです。
また、企業が直接ターゲット増に近い人材にアプローチできるスカウト代行サービスを使うのも有効な方法です。
面接の辞退者が多い
面接を設定できても、辞退者が多いという課題を抱えている企業も存在します。面接前に辞退されることが多い場合は、求職者の中で他の求人の方が優先度が高い可能性があります。求人や募集要項を見直して、より魅力的になるよう改善を図りましょう。
一方で、面接後の辞退者が多い場合は、選考回数を減らす・小まめに連絡を入れる、といった方法がおすすめです。求職者は他の企業の選考も並行して受けていることがほとんどなため、負担を減らしたり接触回数を増やしたりすることで、辞退されにくくなるでしょう。
内定を辞退する求職者が多い
内定の辞退者が多い場合は、面接などの選考を通じて自社の魅力を十分に伝えられていないと考えられます。自社に入社することで求職者にとってどんなメリットがあるのかしっかりとアピールしましょう。また、求職者が抱えている疑問や不安に寄り添い、安心感を抱いてもらうことも大切です。
他にも、近年増えているのが口コミサイトを見て内定を辞退してしまうケースです。従業員に協力して貰い口コミの数を増やしたり、ネガティブな口コミの内容を確認して改善を試みたりすることで対処できるでしょう。
採用しても定着率が悪い
採用後の定着率が悪く、短期間で離職されてしまうケースです。一人を採用するのにはさまざまなコストがかかるため、できるだけ長く働き続けて欲しいものです。
定着率を改善するためには、求人に記載する情報量を増やしたり、面接時に自社のポジティブな情報もネガティブな情報もしっかりと伝えることが大切です。入社後のギャップを強く感じられてしまうと、離職に繋がりやすいためです。
一人当たりの採用コストを見直して費用対効果を高めよう
一人当たりの採用コストの平均を紹介しました。採用コストの削減をするためには、今まで行った採用の結果分析や採用フローの見直し、採用手段の見直しが必要不可欠です。
自社の採用課題を洗い出し、優先度の高い項目からひとつずつ解消していきましょう。
本記事を参考に、より高い費用対効果を得られる採用を行っていきましょう。