長く続いている売り手市場で、人手不足により優秀な人材の確保を迫られている企業は少なくありません。しかし採用方法を変えたり、新入社員の待遇を良くしたりしても成果につながらないケースはあります。
本記事では、課題にあった適切な解決方法はもちろん、自社の課題を洗い出す方法まで徹底的に解説します。
企業が、自社の課題を認識できていないケースも少なくありません。優先順位の高い課題から改善し、採用成功の道を目指しましょう。
京都大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションにて大企業を中心とした採用戦略の策定/実行に従事。現在はサクルートにて様々な企業のダイレクトリクルーティングを支援。
【リスト】近年の企業が直面する採用課題とは
採用課題の意味と、企業が直面しやすい主な採用課題リストを解説します。
自社が認識していない採用課題がある可能性もあるため、「企業が直面する採用課題リスト」は必ずご覧ください。それでは詳細を見ていきましょう。
採用課題とは
採用課題とは、企業の採用活動における成功率・効率の低下を招く障害や問題のことです。
企業がもともと計画した通りの採用を行うことができれば、業務の効率化・高速化・合理化が可能となり、企業の業績向上が期待できます。理想的な採用を行うため、採用課題は可能な限り解決すべきといえます。
優秀な人材を確保するためにも、自社の分析を精密に行うことが重要です。
企業が直面する採用課題リスト
企業が直面する主な採用課題を、以下のリストにまとめました。
採用課題は多岐にわたります。自社の採用活動を改善したい場合は、まずは以下の10個をチェックしてみることがおすすめです。
【応募段階(母集団形成)で生じる採用課題】
- 求人を出しているが応募者が集まらない
- 応募者の質が悪くミスマッチが起きている
- 応募者が多いために選考の質が落ちている
【面接・内定段階で生じる採用課題】
- 面接辞退率が高い
- 入念な面接を行っているが内定辞退率が高い
- 役員による最終面接で不合格率が高い
【入社後に生じる採用課題】
- 早期離職率が高い
- 期待していた活躍が見られない
【採用フローで生じている採用課題】
- 本業と採用業務が兼任のため採用業務が最大化できていない
- 採用管理においてミスが多発している
大まかな採用課題をさらに細かく見ていくと、課題の細分化ができます。
例えば求人を出しているが応募者が集まらない場合、自社にマッチする求人媒体の選定ができていない、求人情報の質が悪いなど細かい課題があげられます。詳細に関しては、各段階における「採用課題と解決方法」をご覧ください。
【母集団形成】採用課題と解決方法
まずは母集団形成の段階で生じる採用課題と解決方法を紹介します。
母集団形成の段階で生じる採用課題は、主に以下の3つです。詳細を見ていきましょう。
採用課題1.応募数が少ないため目標の採用ができない
応募数が少ない場合は、母集団形成の前の段階で課題がある可能性があります。そもそもの応募の数が少なければ、その先の改善もできません。応募数が少ないがゆえに目標数の採用ができていない場合は、なるべく早く課題解決をすべきといえます。
応募を集めるためには、「ターゲットが見る求人媒体か」「ターゲットが採用できる手段か」「自社の認知度は高いか」に注目することで改善が期待できます。
解決方法
【採用方法の変更】
- 求めるターゲットを採用できる適切な採用方法を探す
└ダイレクトリクルーティング、人材紹介、採用代行などのサービスの利用
【求人媒体や利用サービスの見直し】
- 求めるターゲットが見る求人媒体に変更する
- 求人媒体に掲載する情報をターゲットが魅力に感じるものに変更する
- 求人媒体に掲載する情報に写真や図を挿入し他者と差別化を図る
【その他の解決策】
- 自社のホームページを更新し採用の採用情報を掲載する
- SNSなどを活用し自社のPRを行う
- 自社の広報活動を活性化させ自社を知ってもらう
- 企業口コミサイトの確認を行う
- 採用におけるプロに公式HPや求人票をチェックしてもらう
採用課題2.応募者と自社の間でミスマッチが起こっている
応募数の多さに問わず、応募者と自社の間でミスマッチが起こっているケースです。自社が求めている条件に合わない応募者が多いと、応募者の選定に時間がかかるうえに目標数の採用ができません。
母集団形成の段階で生じる課題の中ではよくあるケースで、早急な解決が求められます。
解決方法
【求めるターゲットの明確化】
- 求めるターゲットの条件をすべて洗い出す
- 条件に優先順位をつける
【求人媒体に掲載している情報の変更】
- 求人媒体の掲載文を見直し条件から外れている文章を消す
- 自社の仕事に向いている人・向いていない人を書く
- 求めるターゲットが魅力的に感じる文言を考える
- 求めるターゲットに対してのスカウトメールの送信も視野に入れる
【求人媒体の掲載情報のトライ&エラー】
- 上記の手法で求人が集まらない場合はターゲットを広げる
- 掲載する文言を定期的に変更しデータを分析する
- PCDAを繰り返す
採用課題3.応募者が多いため選考の質が悪くなる
応募者が多く選考の質が悪くなると、入社後の教育やフォローが難しくなります。また役員なども参加する最終面接で不採用になれば、目標数の採用ができなくなるかもしれません。
近年の採用市場が売り手市場であることを鑑みると、中小企業よりは大企業に多い悩みといえるでしょう。
選考の質が悪くなる課題の解決においては、「求人情報の変更」「採用フローの見直し」「採用担当者のリソースのチェック」がポイントになります。
解決方法
【求人情報の変更】
- 人数は集まっているため条件を厳しくし応募のハードルを上げる
- 自社にマッチしない応募者がいる場合は「採用課題2」の方法でふるいにかける
- 書類審査を厳しくし次の面接への通過者を減らす
【採用フローの見直し】
- 採用にかかる工程を減らす
- 採用管理システムの導入を検討する
【採用担当者のリソースの確認】
- 時期に応じて採用担当の人材補充を行う
- 採用担当者のリソースを充分に確保する
【面接辞退】採用課題と解決方法
次は面接から内定の段階で生じる採用課題と解決方法を紹介します。
近年は中小企業において売り手市場が目立っているため、複数の会社から同時に内定をもらう求職者が増加傾向にあります。自社を選んでもらうために必要な解決方法をまとめたので、参考にしてください。
採用課題1.面接前に面接辞退が発生する
面接辞退が多い企業は、面接前に辞退が発生するのか面接後に辞退が発生するのかをチェックしましょう。
面接前に辞退が発生する場合、企業の優先順位が低かった可能性があげられます。そもそもの志望度が低いことが考えられるため、「【母集団形成】採用課題と解決方法」の解決方法を参考に志望度の高い求職者を集める必要があります。
その他の解決方法を、以下にまとめました。
解決方法
【面接のフローの見直し】
- 面接の連絡スピードを従来よりも速くする
- 面接の日をすぐに設定するよう手配する
- 面接の日は連絡から1週間程度以内にする
【面接日打診のメールの見直し】
- 求職者が入りたくなるよう特別感を演出し志望度を上げる
- 歓迎していることをアピールする
- 明らかな定型文は避けて求職者の名前を入れるなど工夫をする
※メールにおける特別感の演出においては、スカウトメールの返信率を上げるための手法に通じるものがあります。ぜひ以下の記事の「スカウトメールの返信率を上げる5つのポイント」もご確認ください。
採用課題2.一次面接から内定までの間に辞退が発生する
面接後に辞退が発生する場合は、面接官の態度が悪い、 面接の回数が多いなどの項目が辞退に繋がっている可能性があります。
また内定直後に辞退が発生する場合は、面接で魅力を感じてもらえない、ネット上の社内の口コミ情報が少ないなどの可能性があげられます。
細かい解決方法を見ていきましょう。
解決方法
【面接内容の見直し】
- 圧迫面接など態度の悪さが露見していないか
- 面接の回数が同業他社と比べて多くないか
└応募から内定までは2週間が理想 - 面接で自社の魅力を伝えられているか
【ネット上の自社の口コミを確認】
- 自社の口コミが極端に少なくないか
└情報が少ないと不安になり辞退に繋がる - 悪い口コミが多すぎないか
└悪い口コミが多い場合は面接で払拭する必要がある
採用課題3.最終面接で不合格率が高く目標採用数に届かない
役員面接など、最終面接で不合格率が高く目標採用数に届かない課題を持つ企業もあります。
役員面接などを取り入れている企業など、最終面接で面接メンバーが変わる場合はすりあわせが必要不可欠です。解決方法の詳細を見ていきましょう。
解決方法
【ターゲット像の見直し】
- 採用担当者と役員の間でターゲット像や条件のすりあわせを何度も行う
- 選考基準をチェックリストにまとめておく
- 採用選考のすり合わせが上手くいかない場合はプロに間に入ってもらう
└採用代行サービスなどの導入
【入社後】採用課題と解決方法
次は入社後に生じやすい採用課題と解決方法を紹介します。
早期離職率が高い会社や、期待していた活躍が見られず後悔が絶えない会社は参考にしてください。詳細を解説します。
採用課題1.早期退職率が高い
早期退職率が高いケースでは、入社前のフローに問題があるのか、入社後の対応に問題があるのかを特定することが重要です。
よくある早期退職の理由が、「求人情報と実際の会社に差があった」といったものです。しかし全ての会社が一概に入社前のフローに問題があるとはいえません。そのため従業員への調査、退職希望者への聞き取り調査の他、入社後の対応について細かく知る必要があるでしょう。
解決方法を紹介します。基本的には、職場の人間関係や採用前と採用後のギャップを注意して観察しましょう。
解決方法
【入社前の段階の見直し】
- 求人媒体に自社の魅力を過大に記載していないか
- 求人媒体に求職者が勘違いする情報を掲載していないか
- 求人媒体に自社のデメリットも正直に記載する
- 求人媒体に向いている人・向いていない人を記載する
【入社後の段階の見直し】
- 職場で嫌がらせやイジメなど露骨に人間関係の悪さが露呈していないか
- 面接の雰囲気と実際の雰囲気に大きなギャップがないか
- 仕事内容は面接時に伝えたものと同じものか
- 入社後の人事評価に問題はないか
【その他の解決策】
- 退職希望者に退職理由を聞く
└本当の理由を言わないケースも多いため注意が必要
採用課題2.期待していた活躍が見られない
採用後配属された部署で、期待していた活躍が見られないケースも採用課題のひとつであるといえます。特に中途採用に関しては、即戦力となる人材の採用が求められるケースは少なくありません。
中途採用した人物が以前勤めていた会社との文化の違い、企業風土の違いがあれば慣れるまで時間を要します。本来の実力を発揮できるよう、サポートに努める必要があります。
解決方法
【採用前の段階の見直し】
- 企業風土や雰囲気、文化、給与形態、人事評価について正直に伝える
- 求職者の能力、希望する配属先などを総合的に考え、入社後の配属先をよく検討する
【採用後の段階の見直し】
- 実力を遺憾なく発揮できる環境を整える
- 本来の実力を発揮するまで時間がかかることを理解する
└数ヶ月程度で見切らない - 自社の企業風土を理解してもらい、慣れてもらう
【社内】採用課題と解決方法
最後は社内における採用課題と解決方法を紹介します。
社内の採用における人員の配置の見直しやシステム導入をすることで解決できる課題を、この章では解説していきます。採用担当者のみの行動では課題解決が難しいため、社内全体で見直していくべき事柄といえるでしょう。
採用課題1.本業と採用業務が兼任のため採用業務が最大化できていない
本業と採用業務を兼任している場合、採用業務の最大化ができていない可能性があります。
採用業務のみを行っている場合、採用のデータ分析やノウハウなどの引継ぎも比較的簡単でしょう。しかし採用業務以外に本業がある場合は、引継ぎが上手くいかず採用に関する技能が成長しません。
またリソースが上手くさけず、採用業務がおざなりになるケースも考えられます。解決策を見ていきましょう。
解決方法
【人員配置の変更】
- 採用業務にリソースを割けるよう人員を増やす
- 採用業務の時期は本業チーム内で業務を再分担する
- 採用を本業とする人員を作りリーダーシップを発揮してもらう
【採用活動の効率化】
- データ収集を行い採用を効率化する
- ノウハウをデータ化する
- 採用のプロに外注し自社にノウハウを蓄積する
【その他の解決策】
- 通年採用を行い採用活動の見直しを行う
- 採用戦略を採用代行に依頼する
採用課題2.採用管理においてミスが多発している
セミナーや面接の日程管理やシビアなコスト管理など、採用管理の業務は多岐にわたります。採用担当者に大きな負担がかかるため、採用活動期間中は少なからずミスが発生するでしょう。
ミスが多発すると、求職者からの信頼が落ちかねません。また対応が遅くなることも、信頼が落ちることに繋がるといえます。
採用管理を徹底することで、採用に関する課題をクリアできる可能性があります。
解決方法
【採用管理におけるミスの解決策】
- 採用管理システムを導入する
- 採用代行などに一部の業務を委託する
- 面接工程を減らす
採用課題を解決するコツ
採用課題を解決するためのコツを、以下にまとめました。
詳細を見ていきましょう。
自社の採用課題を洗いざらい見つける
自社の採用課題を洗いざらい見つけなければ、採用の成功率を上げることはできません。自社が認識できていない課題も多くあることを意識し、課題解決に乗り出す必要があります。
採用におけるファネルを意識することもおすすめです。
求職者が企業を発見してから入社するまでのプロセスをいくつかの段階に分け、どこの段階で課題があるかを考えます。求人媒体を利用している場合はこれらのデータが提供されているケースも多いため、確認してみることがおすすめです。
自社では認識できない課題を知りたい場合は、外部のコンサルタント業者に依頼することもひとつの手段です。また採用計画や採用戦略から全てプロに依頼し、プロの採用方法を間近で見てワザを盗む方法もおすすめといえます。
- 自社が認識できていない課題はある
- 採用におけるファネルを意識する
└求人媒体などからデータをもらえるケースも多い - 外部のコンサルタント業者や採用代行に依頼する
PDCAサイクルを回すためにデータを蓄積する
自社の採用課題をスムーズに解決するためにも、採用に関するデータを集計し分析することが重要です。どの採用手段でどれほどの効果を得られたのか、逆にどの採用手段が効果がなかったのかを可視化していきます。
採用手段ごと、採用段階ごとにすべてデータ化してまとめておくことがおすすめです。採用手段ごとの面接通過率、応募者数に対する採用者数の割合、採用段階ごとの通過者のデータなどを全てまとめておきましょう。
採用課題が発生する環境的要因・トレンド(市場)要因
採用課題は時代によって変化していきます。社会、環境、市場など大きな要因で生じるため、企業はこれらに合わせた採用方法に常にシフトしていかなければいけません。
これらを理解しておくと、今後発生する採用課題を予測でき、早急に対応できるでしょう。
時代の変化
2019年からコロナウイルスによるパンデミックにより、オンライン化が急速に進みました。特に新卒採用に置いては、交通費や宿泊費、移動時間がかからないオンライン面接を重宝している学生も少なくありません。
ただし2025卒はコロナによるオンライン授業化を経験しており、オンラインのデメリットやメリットを理解しています。オンラインと対面のどちらにも対応できるよう、面接準備をしておくことがおすすめです。
また有効求人倍率はコロナ化でも1倍を切っておらず、2024年現在も複数社から内定をもらう人材は少なくありません。今後も売り手市場は長く続いていくことが予想されます。
求職者が使用する就活媒体の変化
近年は若者の就職ナビサイト離れが目立ってきています。2010年代は就職ナビサイトを最大限活用し就活をしている求職者が多い傾向にありましたが、2024年現在は減ってきています。つまり従来の考え方で求人媒体を選んでも、採用の成功率は高められません。
個人情報流出の危険性、ナビサイト以外の情報源の増加などが理由のひとつと言われています。
そのため直接求職者にアプローチするダイレクトリクルーティングや、スカウトメールの送信が今後の採用競争を乗り切るカギといえるでしょう。ダイレクトリクルーティングに関しては、以下の記事もご覧ください。
企業規模・業界別のトレンド(市場)の違い
大手企業 (従業員5,000人以上) | 中小企業 (従業員300人未満) | |
2021卒 | 0.60倍 | 3.40倍 |
2022卒 | 0.41倍 | 5.28倍 |
2023卒 | 0.37倍 | 5.31倍 |
2024卒 | 0.41倍 | 6.19倍 |
2023年にリクルートワークス大卒求人倍率調査が公表した「第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)」では、中小企業と大企業の有効求人倍率に大きな差があるといった結果が発表されています。
大手企業では2021卒から2024卒にかけてわずかに買い手市場傾向になっていますが、中小企業においては売り手市場傾向にあります。
また業界別に見ると、流通業、建設業、製造業の売り手市場の傾向が強く出ている結果でした。逆に金融業、サービス情報業は買い手市場の傾向が強く出ている結果です。
金融業・サービス情報業や、大手企業を志望する学生・若者が増えている傾向にあります。自社の立ち位置をよく理解し課題を精査することが、今後の採用競争において生き残る道であるといえるでしょう。
【※有効求人倍率とは※】
有効求人倍率とは、有効求人数を有効求職者数で割った数字です。例えば求職者10人に対して求人数が20ある場合、20÷10=2倍となります。つまり数値が高いほど売り手市場、数値が低いほど買い手市場といえます。
採用課題を解決して優秀な人材の確保を実現しよう
採用課題を解決することで、優秀な人材の確保につながり、さらには自社の業績向上につながります。
ただし重要な採用課題を自社が認識できなければ、良い結果は得られません。まずは採用課題を洗い出し、優先順位を決めて取りかかることがおすすめです。
採用代行など、採用のプロに採用戦略からすべてお願いすることで、自社の欠点が分かるケースも少なくありません。まずは一度、採用代行にお願いすることも視野にいれましょう。